私は理性的に映画を観ることができない性質らしく、
その日のテンションで観る映画の印象はかなり変わってくる。
観るものの感受性を刺激するタイプの映画ならなおさら。
そういうわけで、王家衛監督の映画も見る機会を逃していた。(ただ一本を除いては…笑)
素敵変態のお師匠様であるHTさまと一緒に、「王家衛special」@六本木シネマートに。
浴衣の人並みを泳いでようやく辿りついた映画館は独特の雰囲気。
(5年以上前につぶれてしまった藤沢のオデオン4号館を思い出した。)
垂れ幕や上映開始のブザーも少しくたびれて、同時に温かみを感じるような…
そんな雰囲気に包まれ、8割方客席が埋まった状態で始まった映画。
「ブエノスアイレス」
良い良いとは聞いていたけれど、本当に良かった。
そして何より濃い!
ブエノスアイレス(香港の真裏)へイグアスの滝を見に行ったウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)は、その地になかなかたどり着けずにいた。
生活費を稼ぐためにホテルマンや厨房で働くファイを尻目に、ウィンはとらえどころなく飛び回り、
窮地に陥るとフェイの許に舞い戻る。
ウィンは両手に怪我を負い、ファイは甲斐甲斐しく世話をする。
それでも気ままに行動するウィンと、彼を受け入れてしまう自分自身に腹立ちつつやりすごしていたファイだった
が、台北から「世界の果て」を目指し一人旅をしている青年チャン(チャン・チェン)と出会い、少しずつ二人の関係に変化が起きる…
観ている間は色彩の水煙におそわれているような感覚になったが、
思い返してみると印象に残っている色は少ない。
少しくすんだ白(二人のパンツは真っ白だったが…)、濡れて光る黒、深紅。
そして二人がみつめる「イグアスの滝」を模したランプの水色のきらめき。
それらは混じることなく、どれかの色がシーンの基調となっていた。
登場人物たちにも同じことを感じた。
フェイもファイも、ラストシーンまで確かにお互いを愛していた。
けれど、交わってともに行くことは最後までできない。
二人では辿り着けない、一人でなら辿りつけるが、その道程はあまりにも孤独だ。
チャンは辿りつき、おそらく元いた場所に戻ることができるだろう。
フェイは帰る場所はあるが、簡単に戻れないことはわかっている。
ファイはきっと、「あの場所」に留まりつづける。
フェイは再びファイと出会えると希望を抱くが、私は「この二人はきっと出会うことはない」と思った。
おそらくファイも、「フェイと会いたい」と思いながら、会いに行くことはできないだろう。
彼らは「ブエノスアイレス」で出会い、別れ、再び交わることはない。
彼らが共にすごした日々は、劇中を貫くアルゼンチンタンゴのように、
抱き合うからこそお互いの鼓動まで感じあい、だからこそひとつになることはできないことを痛感する。
音楽が止めば抱擁は解かれる。
一緒に戻ることはどうしてもできないのだろうか。
終わりに近づき、台北のどぎついネオンとご陽気なロックが走っていく中、そんなことを考えて
胸がちょっと苦しくなった。
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「スプリング・フィーバー」はこの映画の裏写しかもしれない、
また、違った意味で「2046」もこの鏡像かも。
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そんなこんなでボーーッとしながら映画館を出ると、地面に刺さりそうな土砂降り!
家にある傘の中で最弱の折り畳みしか持って来てない…と思ったものの、
そこから徒歩20歩もない隣のビルの「香妃園」へ。
(食べログ内ページ)http://tabelog.com/tokyo/A1307/A130701/13001271/
さすがHTさまの眼力で頼んだ「鶏そば」が、濃厚な鶏ダシと米麺?で本当においしい!
しかも一人前といいつつ絶対二人前だろ!と言いたくなるボリューム。
ビールを傾けつつ、お互いに店員さんに軽くシカトされつつ他二三品も平らげ満腹状態。
そしてタリーズになだれこんで引き続きダベリ。
普段そんなにおしゃべりでもないはずなんだが、ほんとにつまらん&気持ち悪い身内話もしてしまって、後から考えるとだいぶ恥ずかしい…
(しかしダベリってそんなもんだろ!と開き直る)
お互いにコーヒー一杯でかなり話したみたいで、
お店を出たら深い時間に入り始めていた。
なにせ8月に「ブエノ(スアイレスなど語り合う)会」のお約束をしているもんで(涎)
それが今から楽しみでしょうがない!
それまでに色々通りすぎてきた映画も少しずつ観ておこうと画策中。
ふっふっふ…
コメント
タイトルが素晴らしい。
まさに、まさに。
最初、この内容なら別にブエノスアイレスでなくても良かったんじゃ?と思って見始めたのが、最後まで見終わって、なるほど。そうだったのか…と。
地球の反対側に居てもピタリと寄り添っていても、心の距離は同じ。
だから「いつでも会える」。なんともやるせないHappy Togetherでありました。
体調大丈夫ですかーっ;
私も無意味なものなどない、と思いました。
その瞬間には「?これいる?」と思うんだけど、あとからすとんと落ちてくる諒解。
王家衛監督はどうなのかな?
そのシーンを撮っている瞬間は意図してない(しようがない?)ことが多いと思うので、
そのつなげ方が絶品、ということでしょうか。
観客は彼なりの納得の(演者にとっては迷惑気味な?)道のりを楽しんでいるのかもしれません。
>地球の反対側に居てもピタリと寄り添っていても、心の距離は同じ。
だから「いつでも会える」。
なるほどね!
私が書いたのとちょうど「真裏」の表現!!
絶対的な孤独を感じながら、お互いを求め合う。
うーん…本当にやるせない&切ないラストでした…