憎ませてよ、お母さん
2010年11月1日 memo
「母」という存在は、人によって様々な像を結ぶ。
憧れの女として、よき先達として、反面教師として。
自分を足蹴にする姿を見上げてる女児でさえ、「母」は「母」。
年を経るごとに、その存在をどう捉えるかは変わっていくけれど。
それでも、躊躇いなく断ち切るには余りにも特別なつながり。
ヘルガ・シュナイダー 「黙って行かせて」
母親は、空襲の夜に出て行った。6歳の彼女と弟を置いて。
30年後、彼女は息子を連れて「母」を尋ねた。
自分の息子を抱きしめてほしかったから。
母は空襲の夜を抜け出して生きていた。
「アウシュヴィッツ収容所の優秀な職員」として。
自分の孫には一瞥もくれず、
娘に「制服」を着るようせがむ母を彼女はしかし、棄てきれなかった。
さらに20年後。
50歳になった彼女は、老人ホームで夢現を彷徨う母に会わねばらならなくなった。
殺すほどにお互いを刺す会話。
母はナチとしての誇りを傷つける娘に激昂し、
「マミィ」と呼ばせ、キスと黄色のバラをねだる。
娘は母の犯してきた罪と、彼女と自分との「血のつながり」に慄く。
自分の"業績"を詰問する娘に母は生気に満ちた瞳で非難する。
『自分が潔白だなんて顔しないで! あたしの目を逃れることなんてできませんよ、あんた! それともユダヤ人に対していちども憎悪の念を抱かなかったって、ほんとうに主張できるの?』
彼女は否応なく引き戻される。
「従順に」「無邪気に」ユダヤ人を迫害した少女のひと時を。
「マミィ」と呼ぶに値しないこの女。
早くここから消えてしまいたい。
黙って行かせて、お母さん。
--------------
正直言って、流麗な文体ではないし、
作中で「母」に振り回される彼女そのもののように感情の抑えがきかず、散漫な印象さえ受ける。
ただ、それが彼女の混乱ぶりを表わすようで。
この母娘が刺しあったら、どちらが殺してしまえるのだろう
なんて、詮ないことを思ってしまった。
ヘルガ・シュナイダー「黙って行かせて」新潮社
憧れの女として、よき先達として、反面教師として。
自分を足蹴にする姿を見上げてる女児でさえ、「母」は「母」。
年を経るごとに、その存在をどう捉えるかは変わっていくけれど。
それでも、躊躇いなく断ち切るには余りにも特別なつながり。
ヘルガ・シュナイダー 「黙って行かせて」
母親は、空襲の夜に出て行った。6歳の彼女と弟を置いて。
30年後、彼女は息子を連れて「母」を尋ねた。
自分の息子を抱きしめてほしかったから。
母は空襲の夜を抜け出して生きていた。
「アウシュヴィッツ収容所の優秀な職員」として。
自分の孫には一瞥もくれず、
娘に「制服」を着るようせがむ母を彼女はしかし、棄てきれなかった。
さらに20年後。
50歳になった彼女は、老人ホームで夢現を彷徨う母に会わねばらならなくなった。
殺すほどにお互いを刺す会話。
母はナチとしての誇りを傷つける娘に激昂し、
「マミィ」と呼ばせ、キスと黄色のバラをねだる。
娘は母の犯してきた罪と、彼女と自分との「血のつながり」に慄く。
自分の"業績"を詰問する娘に母は生気に満ちた瞳で非難する。
『自分が潔白だなんて顔しないで! あたしの目を逃れることなんてできませんよ、あんた! それともユダヤ人に対していちども憎悪の念を抱かなかったって、ほんとうに主張できるの?』
彼女は否応なく引き戻される。
「従順に」「無邪気に」ユダヤ人を迫害した少女のひと時を。
「マミィ」と呼ぶに値しないこの女。
早くここから消えてしまいたい。
黙って行かせて、お母さん。
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正直言って、流麗な文体ではないし、
作中で「母」に振り回される彼女そのもののように感情の抑えがきかず、散漫な印象さえ受ける。
ただ、それが彼女の混乱ぶりを表わすようで。
この母娘が刺しあったら、どちらが殺してしまえるのだろう
なんて、詮ないことを思ってしまった。
ヘルガ・シュナイダー「黙って行かせて」新潮社
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